『下町ロケット』と『リシの旅路』がつないだ、農業と”働く”をめぐる旅

『下町ロケット ゴースト』『ヤタガラス』読了記録

〜日本とインドの農業から考える、私たちの“働く”と“生きる”〜

かなり話題になった池井戸潤さんの『下町ロケット』シリーズ。昨年ようやく読み始めた私は、だいぶ時代遅れの読者かもしれません。テレビドラマが話題になっていたのは2015年。当時の私は会社員として多忙を極め、自分の人生で精一杯。本やドラマで“他人の人生”を追体験するなんて、時間の無駄だと思っていました。

でも今は違います。読書や映画を通じて、自分では経験できない人生を知ることで、自分自身の視野や器を大きくできると感じています。

「ゴースト」「ヤタガラス」は農業がテーマ

シリーズ前半の『下町ロケット』『ガウディ計画』を読んだ後、組織のリアルな人間関係に感情がかき乱され、少し気持ちを休めたくて中断していました。

そんな折、GWに友人たちと集まったとき、ちょうど佐賀県知事の山口知事が「米の値段の高騰はこのままで良い。これでも安すぎる」と発言したこともあり、話題は自然と昨今の米の流通や価格高騰、日本の農業へ。「米の流通価格がどうこう言う前に、作り手である農家が減っている現状が問題なのでは?」今の現状は、作り手がいなくなった未来の姿であり、「米の価格を下げる」ではなく、「米の作り手の減少をどう食い止めるか」が重要じゃないかと私が持論を語ると、別の友人が「でも『下町ロケット』みたいに農業が自動化されたら、その問題も解消されるんじゃない?」と話してくれ、私は「え、そこまで話が進むの?後半は農業の話なの?」と驚き、続きを読まなきゃと一気に読破。

さらに別の友人は「私は実際に米作り体験に申し込んだよ」と話してくれました。田植えから稲刈りまでを体験し、その後、自分たちで育てたお米が届く仕組みになっているそう。消費者として”米を買う”でなく”米をつくる”経験をすることで、価格や価値に対する感覚が変わったと言う話には説得力がありました。

憎しみではなく理念を原動力に

今作で印象的だったのは、「動機」の持つ力とその質。憎しみや怒り、復讐心は確かに行動の原動力になりますが、それを基に行動すると、たとえ目標を達成しても後味が悪く、次につながらない。一方、「日本の農業を支えたい」「未来の子どもたちに農を残したい」という理念に基づいた行動は、迷ったときの指針となり、遠回りに見えても結果的に多くの人を動かす力になる。“無人トラクターを作って農家に届ける”という目的は同じでも、「的場部長を潰すため」と「農業の未来を守るため」では、プロセスも人間関係もまったく違うものになる。これはキャリア支援にも通じると強く感じました。

「自分の働く理念は何か?」と問い直す

物語の中で、佃製作所の社員たちは、会社の理念や仲間との信頼の中で全力を尽くして働いている。では、私は何のために働くのだろう?最初に思い浮かんだのは「自己成長」でした。でもそれはあくまで“自分のため”。もっと根本にあるのは、「誰もが力を発揮できる環境に出会えるように」という思いか?と気づきました。それが私の読書会やキャリア相談、教育支援の軸でもあります。

そして、奇しくも佐賀で公演中に「米を買ったことがない」と発言した某大臣には、現場の感覚は届いていないのだろうなとも感じ、目先の政策ではなく、10年先、20年先の日本の農業の姿を想像して、今こそ対話と行動が必要なのではないか、国、大臣の理念が大切になってくると思いました。

国を超えて共通する農業の課題

さらに思い出したのが、4月末に観たインド映画『リシの旅路』(主演:マヘーシュ・バーブ)。

貧困家庭出身で、ニューヨークのIT業界でCEOに上り詰めた主人公が、成功の果てに“本当に満たされる生き方”を求めてインドに戻り、農業と教育に関わる物語です。インドでも農業離れは深刻な社会問題。米や野菜を育てる農家が、大型開発によって減っている現実に、ラストファーマーズにも通じる切なさと希望が描かれていました。

日本でも、インドでも、食と命を支える“つくり手”がどれだけ大切な存在か。米不足や価格高騰に文句を言う前に、私たちにできる行動は何だろう?と考えさせられます。

「どう働くか」は「どう生きるか」につながる

本も映画も、そして友人との会話も、“働く”という行為の奥にある“生きる”という根源的な問いにつながっていました。理念を持って働くこと、環境によって人の力が引き出されること、そして一人ひとりの行動が未来の社会を変えていくこと。

私たちが何気なく食べているお米の、その一粒の背景にどれだけの人と努力があるのか。読書と映画、そして友人との会話が一つにつながったことで、私自身の”働く”や”生きる”の軸も、また一つ深まりをもてた気がしています。

 

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